先生

先生

どんぐりの木を覚えていますか
幼稚園の裏庭にあった
あの大きなどんぐりの木です

たくさんの枝や
葉っぱで
いつも
陽の光が届きませんでした

私はよく
あの木の下で
ぼうしのついたどんぐりを拾うのが好きでした

ある日
縁日で買ったひよこが死んだのです
私は
あんなに可愛いヒヨコが死ぬなんて
思ってもみませんでした
どうしたらよいかもわからずに
死んだヒヨコを幼稚園に持っていきましたね

私の小さな手の中で
黄色のヒヨコは死んでいました

友達は悲鳴をあげて
大騒ぎでした

私はなぜみんなが騒いでいるかもわからずに
泣いていましたね
可愛いヒヨコを抱えたまま

先生

先生は私に近寄って
「うめてあげようね」って言いました
やさしい声で

私は意味もわからずに
先生と一緒にどんぐりの木の下へいきました
小さな紙の箱にいれられて
ヒヨコは眠っているようでした

あんまり可愛かったから
私は埋めるのは嫌だと泣きました

先生は少し困って
「しばらくここにおいておこうね」
って言いました

私はどんぐりの木の根元に
その箱を置いて
眠っているヒヨコを眺めてました
ずっと
ずっと
見ているつもりでした

でもね先生
ぼうしのついたどんぐりがたくさん落ちていたんです
私は思わず拾いました
たくさん
たくさん
ヒヨコの事も忘れて
たくさんのどんぐりを拾ったのです

友達にもあげました
先生にもあげました
そして
ヒヨコにもあげようと
箱をのぞいたのです

いなかったんです
ヒヨコ

先生
一緒に探したけれど
見つかりませんでしたね

「犬か猫に食べられちゃったのかな」
先生はとっても悲しそうな顔で私に言いました

先生が私の顔を覗きこんだ時とき
私は思わずにっこり微笑みました

だって先生が悲しんでいたから
元気になって欲しくて

先生だけだったんです
悲しんでくれたのは
ヒヨコに触ってくれたのは

紙の箱にはどんぐりを入れて
お墓を作りましたね

先生といっしょに
小さなスコップで
先生の白い手は泥だらけでした

覚えています
卒園式の中
先生にさよならも言わないで
帰って来てしまいました

だって先生
お父さんがぐいぐい手を引っ張っていったから

私泣いていたんですよ
さよならの意味もわからずに

それから一度もお会いする事もなく

先生
お元気ですか

意味もわからずに泣いていた私です

そんな私が母になりました
どんぐりの木はなくなりました

先生
幼い記憶に
あなたはひとり
先生
ひとり

先生
お元気ですか