夢と現の狭間の音
チャリ チャリ チャリ チャリ
眠っていた真夜中に聞えてきた
布団の中は温かで
幼い目は
開けたくはなかった
ただ耳に響くあの音に
意識が向かっていたのです
チャリ チャリ チャリ チャリ
お父さん あの音は何の音?
あれはタイヤのチェーンの音
どこかで雪が積もっているんだ
握った父の手は温かで
夢か現か どこかで雪が
チャリ チャリ チャリ チャリ
通りすぎるのを
目を瞑ったまま聞いていた
ガタコン ガタコン ガタコン ガタコン
修学旅行の寝台列車
雪国に向かう私達
馬鹿騒ぎと真剣さと
笑い合うたび交差して
眠れないまま
無理やり目を閉じて
それでも駅に停車する度に
眠っていた事に気がついた
ガタコン ガタコン ガタコン ガタコン
こっそりカーテンを開けて
曇ったガラスを拭っては
明るい光に照らされて
白いボードに記された駅の名前
出発前に見た 地図にある駅の名前
少しづつ少しづつ
私達は向かっていた
夢か現か 見知らぬ土地で
ガタコン ガタコン ガタコン ガタコン
向かっていたのを
眠れないまま感じていた
あれから
随分通りすぎ
随分向かったはずなのに
夢と現の狭間の音はまだ聞こえない
冬の真夜中
あなたと一つの寝床を温めて
これからいったいどれくらい
過ごしていくというのでしょう
安らかな寝息
ぬくもりの気配
夢か現か
それらを聞いたような気になって
ここにこうしていることさえ
儚い不思議な夢のよう
いい夢ばかりではないだろうに
やはり無邪気な儚さで
辿りつけば眠っていたと気づく驚き
問えば答えた父の声
景色にはっきり灯る駅の名前
そんなものを期待してるわけではないけれど
それはいつも突然に
訪れるものだから
ただ今は
つかの間の静寂に目を閉じて
ゆっくり意識は
夢か現か
あとどれくらい
狭間の音が聞えるまで
冬の夜に添い寝する